子竜の年代記

同人関係に限らず、レビューや雑記とか。

なぜ今エロゲ業界がヤバいのか? 一般エロゲーマーの思うところ(後編)

◆はじめに

前回の記事では、現在のエロゲ業界がどのような状況にあるのか、エロゲのどこに問題があるのかについて整理してきました。

後編となる本記事では、あるブランドが実施した解決策のひとつを例に挙げ、その内容を評価してみたいと考えています。

最後に、どのような考え方があるのかについて紹介させていただきます。前回の記事で問題として挙げた「エロゲ購入はハードルが高い問題」「エロゲのコンテンツ鮮度短すぎ問題」を解決するためのアプローチとして、机上の空論ではありますがいくつか案を出させていただきましたのでそれを紹介していきます。

 

◆事例から考えるエロゲのあり方 

■「あっぷりけ」と「暁WORKS」のIP戦略について

最近では、有名エロゲブランドの「あっぷりけ」と「暁WORKS」がスマホ向け全年齢版ノベルゲーム(ライトビジュアルノベルと紹介されています)「月影のシミュラクル」や「緋のない所に烟は立たない」を無料でリリースしたことが話題になりました。
ディレクターの憲yuki氏が電撃姫に寄稿した記事には「無料公開によってIP(知的財産)を得て、後のパッケージ販売につなげる」旨のコメントがあり、非常に意欲的な試みとして注目していました。

dengeki-hime.com


しかし、私の観測する限り「月影のシミュラクル」や「緋のない所に烟は立たない」の無料公開が大きな注目を集め、パッケージ版が既存の作品と比べて大幅に売れたようには思えないのです。


スマホとノベルゲームは相性が悪い?

少し話は脱線しますが、エロゲ―マーの皆さんはスマホをいつ、何に、どれくらい使うでしょうか?


私の場合、スマホは主に以下のようなタイミングで使います。
・通勤/退勤中の電車内
・会社の昼休み
・家でたまに

 

主な使用アプリは以下のようなものです。
ツイッターのクライアントアプリ
・読書アプリ(Kindleなど)
・Webブラウザ
・将棋の観戦アプリ、対局アプリ
・ゲームアプリ(「はねろ! コイキング」「遊戯王デュエルリンクス」など)

 

そして使用時間はというと……それほど長くはありません。
通勤電車に乗っている時間は40分程度、昼休みは1時間。これくらいです。
なぜなら、家に帰ればパソコンがあって、パソコンに向き合うことになるからです。

 

これは私自身の例ですが、同じような行動パターンの方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。
そうするとどうなるかというと、「限られた時間の中で、限られたアプリを使用する」ことになり、必然的に1つのアプリにかけられる時間は短くなります。
そうすると、必然的にスタミナ制などで「起動しなくちゃ!」と思わせるソシャゲの優先度が高くなるのはある程度必然と言えるでしょう。


つまり、「ダウンロードはしたけど結局プレイしてない……」というプレイヤーも多いのではないでしょうか。それではいくら無料でプレイできたとしても意味がありません。
加えて、ノベルゲームはシナリオの区切りが難しく、短時間でキリをつけることが難しいものです。
「時間のある時にじっくりプレイしよう」と考えて、結局プレイしない……というパターンもあると考えています。

 

これは、既にソシャゲという強力なシェアを誇っているジャンルがあるスマホという領域に、ノベルゲームは適していないことを意味しています。

このことには私自身ひどく驚きました。フリーゲームとして公開されたので「なんて太っ腹な!」と思っていたのに、いざダウンロードしてもなかなか起動しないという……。


もしかすると、「どうせ無料だから急いでプレイすることないや」みたいな、無料であるがゆえに特別感がなくプレイするモチベーションが上がらないということもあるかもしれません。このあたりの心理面の作用については私自身ももう少し考えたいと思っているところです。

スマホを使ってIPを獲得しようとするならば、スマホならではの手法を使う必要があるということでしょう。


※余談ですが、明日(6/10)にあっぷりけと暁WORKSから重要なニコ生が行われるとのことです。やはりといいますかブランド側も現状に危機感を募らせていることがうかがえ、実際の業界の方がどのような考えを持っているのか、どうしようとしているのか知りたく、また微力ながら自分にできることがないか考えるべく視聴したいと考えています。

 

 

◆本題:じゃあどうすればいいのさ?

ここまで、偉そうに「エロゲはこういうところが良くない」とか「ソシャゲはここが良い」と、なにかとエロゲを下げる発言をしてきました。これはあまり本意ではないのですが、どうしても比較というのは必要なもので……ご容赦いただけますと幸いです。
しかし、私は決してエロゲはもう終わりとか、エロゲがなくなるとか思っているわけではありません。
だって、私はエロゲが大好きなのです。エロゲにも良さがあって、好きなプレイヤーはたくさんいて、高かろうとなんだろうと気に入った作品は購入してプレイするのです。


現時点で考えられるのは、そういう状況により多くの人を巻き込むといった観点でしょうか。以下は現在考えている施策案になります。

 

■分量を分ける、価格を下げる、そしてリリースサイクルを短くする

これは最近「フロントウイング」が「グリザイア ファントムトリガー」で実践されている手法で(ファントムトリガーは全年齢向けですが)、高価なゲームを買うというハードルを下げるために価格を下げ、その代わり分量は少なめ、そして新作発売までの間隔を短くするというものです。


確かにこれならですし、しかもコンテンツが長く続くので従来の作品に比べれば長くそのコンテンツを楽しむことができます。
最初から完全に完成したものを販売するのではなく、ある程度分割して都度リリースする……この考え方は一考の価値があるのではないでしょうか。


もちろん、ただ分割すればいいというものでもありません。分割することに意味があるような効果的な手法を取り入れる必要があったりと、考えることは増えることになるでしょう。それでも、うまく活用できれば非常に大きな武器になると考えています。

 

(23:40追記)ただし、私はこの手法でもまだ「足りない」と考えています。本題の項目に書いた通り、高かろうとなんだろうと好きな作品は買うのです。逆に言えば、価格はあまり関係ないのです。

重要なのは「購入」は「基本無料→課金」よりも心理的ハードルが高いということで、それを「購入」という前提を変えられないとするならば、可能な限りその心理的ハードルを緩和する必要がある、というのがここで言いたかったことでもあります。

 

■なんとかエロゲもフリーミアム化できないものか

フリーミアムとはソフトウェアの形態のひとつで、基本機能を無料で使用でき、後に課金することでより高性能な機能が解放されるというものです。

ゲームでいうと「スーパーマリオラン」が代表格でしょうか。あのゲームも前半ステージまでを無料でプレイできて、固定額の課金によって全ステージ開放して遊ぶことができるというものでした。


エロゲにおいても同様で、たとえば体験版をWeb無料公開してまずはダウンロードしてもらい、面白ければその体験版から直接課金して追加シナリオを解放……という形にすることができれば、購入への敷居を大幅に下げたり、課金に対するハードルを下げることもあるいはできるのかもしれません。
無料で体験版を配布したとして、そこから課金に繋げることができるかは……作品の力次第だと思います。

 

課題としては、現状では体験版から課金するための仕組みがないこと、課金して解放したゲームのライセンス管理(コピー対策等)、まず体験版をダウンロードすることが習慣化できていないことへの対策、その体験版を一元的に管理・配信できるプラットフォームの整備あたりでしょうか。

 

■パッケージの物理販売にこだわらない

これは物流などのエロゲ業界の事情を一切考慮せず言ってしまうのですが、現在主流のパッケージ販売はそういった流通やパッケージに縛られた融通が利かないシステムになっています。インターネットを活用してより柔軟な形態で展開するならば、物理に縛られるのはあまり得策ではありません。


しかし、パッケージであることに一定の価値があることも事実です。やっぱりケースに入ったDVDで欲しいという人は多いですしね。
あくまでパッケージ販売は手段のひとつであり、インターネットを活用して家でもすぐに購入してプレイできる環境を用意しておくことは重要だと考えています。

 

 

これらはあくまで、既存のエロゲの延長線上にあるものです。例えばスマホでもうまいこと楽しめるエロゲが作れないかとか、ソシャゲのようにWebサーバー+データベースを活用したゲームを作れないかとか、全く異なるアプローチについても検討しているのですが、いかんせんそのあたりの理解が浅いため、今回はここまでとさせていただければと存じます。

 

 

◆おわりに:エロゲ業界に限った問題ではない

この問題は、エロゲ業界に限った話ではありません。類似の業界でいえばラノベもそうですし、直接関係ないところでいうとカメラ業界とか印刷業界とか……とにかく競争が激しく、苦しい状況にある業界は多々存在しています。
かくいう私もそうした競争が激しい業界に身を置いており、厳しい現実と向き合っているところでもあります。
そんな折、現状を打開するための何らかのきっかけになればとマーケティング関係の本を読み始めたことがきっかけで、エロゲ業界についても見直してみることとなりました。

 

繰り返しになりますが、私はエロゲが大好きです
大好きだからこそ、現状をただ眺めているだけではいられなくなってしまいました。

 

私は、大好きなエロゲが時代の流れに取り残されることなくこの先生きのこることを願ってやみません。
この記事が業界関係者の皆様に何らかの気づきを与え、変革に繋がるのであればそれに勝る喜びはありません。


今回の記事だけでは語り尽くせない、作品以外のこともあるわけでして、そういったところも今後何らかの形で紹介していければと思います。

 

 

このような長文記事をここまで読んでいただきありがとうございました。願わくばこの記事が多くの業界関係者の目に留まり、何らかのリアクション(良くも悪くも)をいただけると幸いに存じます。

 

もし本記事を読んで、「もっと詳しく話を聞きたい」とか「お前は業界関係者を怒らせた。記事は即刻削除しろ!」とか「その知見でぜひ弊社のブランドに力を貸してほしい」などのお話をいただけるのであれば(最後のはちょっと自意識過剰ですが……)、
kurama.shiryu@gmail.com
までメールをいただけますと幸いです。

簡単な質問やご意見ご感想、記事内容の誤りなどございましたら本記事にコメントをいただければと思います。

 

それでは、きっとまたお会いしましょう。