子竜の年代記

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なぜ今エロゲ業界がヤバいのか? 一般エロゲーマーの思うところ(前編)

◆はじめに

あらかじめ申し上げておくと、私はエロゲ業界の人間ではありません。同人小説書きという肩書はこの場においてなんの役にも立たず、いちエロゲ―マーと名乗った方がより意味があるでしょう。ですが、エロゲを愛する人間のひとりとして、現状を現状のままにしておきたくないという想いがあり、稚拙ながらこのような記事を書かせていただきました。
本記事は、あくまでファン目線で現在のエロゲ業界について思っているところ、エロゲ業界に限らず思っているところ、今後について思うところを書いていければと思います。
上記の通り「思うところ」程度の発言しかできないので、信頼性や正確性に欠けるところもあるかと思います。大変恐縮ですが、内容に関する指摘、クレームなどはしっかり受け止めていきたいと思いますので情け容赦ないコメントお待ちしております。

 

■エロゲ業界がヤバいと言われて久しいですが

さて、最近なにかとエロゲ業界がヤバいと言われ続けています。

特に象徴的な出来事として、つい先日、私が好きなエロゲブランドだった「Lass」の会社が倒産しました。アニメ化もされ、コンシューマーゲームとしても展開された「11eyes」シリーズを生み出したLassでさえ、生きていくには厳しい業界なのだということをまざまざと見せつけられたように感じています。

 

■エロゲの知名度は上がっているはずなのでは?

しかし、私は妙な話だと思いました。ここ数年、インターネット――特にTwitterやPixivをはじめとしたSNSの発達によって、エロゲというものの存在は数年前と比べて遥かに広まっているはずです。
好きなイラストレーターをPixivやTwitterで見かけて、調べたらエロゲの原画を描いてたとか、フォロワーがエロゲの宣伝ツイートやスクリーンショットを拡散していて目に留まったとか、とにかく目に触れる機会は増えていると私は考えています。
にもかかわらず売上が低下しているということは、「エロゲの存在は知っているけど買わない」という人が多いということです。

 

■過酷なレッドオーシャン、消耗するブランド

大半のエロゲは毎月月末の金曜日(いわゆるエロゲの日)に一斉に発売されます。毎月およそ40作前後のエロゲがリリースされ、プレイヤーである我々はその中から思い思いの作品を購入しているわけです。


では、その40本の中からどの作品を購入するか?


その判断基準はいろいろあると思うのですが、残念ながら消費者であるところの我々は全ての作品を購入できるわけではありません。必然的にどの作品を購入するか判断し、選択することになります。その判断基準はブランド、原画家、ライター、作品の世界観など様々ですが、最近はどの作品も非常にクオリティが高く、激しい競争になっています。
競争で優位に立つためには他ブランドとの差別化を図る必要があります。礼としては広告露出の増加やLive2DやE-moteの導入、有名イラストレーターの起用などが考えられるわけですが、それらはつまりお金がかかるということです。そうやってどこかが頑張ると、当然他のブランドも負けないようにお金をかけるわけで。また負けないように……と、連鎖的に出費が増えていくわけです。


しかし、それによってエロゲ1本の販売価格が特別増えるわけではありません。そうするとどうなるかというと、同じ本数のエロゲを売ったとしても得られる利益が少なくなるのです。
それを繰り返していくと、どんどん出費はかさみ、売上は苦しいものになってきます。しかし、そうしないと売れないからそうせざるを得ないのです。
こうした、市場が成熟しきった状態で業界内で血みどろの競争を繰り広げている業界のことをレッドオーシャンと呼びます。エロゲ業界の現状は、まさにレッドオーシャンと言って差し支えないものでしょう。

 

レッドオーシャンの戦い方

この現状を前にして、とるべき対応は以下の二択となります。
・あくまで現状の業界の中で戦い続ける
レッドオーシャンを脱却する別の形態で作品を制作する
前者の場合は過酷な競争に身を投じ続けることになりますが、「俺は今のエロゲが好きだからこういうのを作り続けたいんだ!」という方は結構な数いらっしゃると思います。それ自体を否定する気は全くないのですが、やはり厭世観を抱き続けるのは苦しいものがあるかと思います。
とはいえ、競争脱却のために転機を図るのは容易でないことです。もうずいぶんと長いこと現在の業態でやってきているわけですから、それを急に変えるというのは多大なリスクを背負うことになります。うまくいけばいいですが、うまくいかず早々に失敗、多額の赤字を背負うことにもなりかねません。
ここからは、私が考えた現状の整理と、解決策の案について述べていきます。

 

◆現状把握と分析

こうした目の前の問題に対して、それを解決することを問題解決といいますが、問題解決するには現状を正しく把握する必要があります。

 

■エロゲの競合とはなんぞや?

エロゲは、なにもエロゲ業界内だけで競争しているわけではありません。ラノベとか、エロゲ以外のゲームとか、動画視聴とか……プレイヤーが余暇を楽しむための手段は、エロゲだけとは限らないのです。
とりわけ、数年前からスマートフォンやWebブラウザ上でプレイできるいわゆるソーシャルゲームがものすごい勢いで台頭してきました。私はこのソーシャルゲームこそが、プレイヤーをエロゲから遠ざける一番の競合であると考えています。

 

ソーシャルゲームの強みについて

今でこそ厳しい課金要素が取りざたされるソーシャルゲームですが、そこにはプレイヤーがゲームを長く、多く遊ぶための工夫が多数盛り込まれています。以下はその一例です(カッコ内はゲームプレイヤーの思考代読)。

・事前登録特典/ガチャ
(とりあえず高レアリティのキャラを確保しとこう→せっかく高レアリティのキャラを確保したんだし遊んでみるか)
・基本無料のゲームシステム
(とりあえず最初だけ遊んでみて、面白かったら続ければいいや)
・スタートダッシュガチャ
(今のうちに強キャラを手に入れておけば今後が楽になるな)
・ログインボーナス
(毎日ログインしないともったいないしログインするか)
・スタミナ制
(スタミナ切れたからここまでにしよう→スタミナ溢れるからプレイしよう)
・定期的なシナリオの追加、キャラの追加
(アップデートきたから新しいイベントで遊ぼうっと)

これらは全て買い切りのパッケージソフトでは実現できない、インターネットを最大限効果的に活用したシステムです。これらは全て、プレイヤーがプレイしやすいように最大限配慮され、綿密な計画の下でソーシャルゲームへと誘導されているのです。
そうしてなんだかんだ続けていったゲームというものは次第に愛着がわいてくるもので、課金してそのゲームをより深く楽しもうと考えるようになるのは自然なことだと思います(無課金を貫くプレイヤーもいますが)。
……まあ、その際に要求される課金レベルがえげつないという問題はありますが。それについては今回は置いておきます。

 

■一方のエロゲは……?

では、エロゲについてはどうでしょうか。

・事前登録特典→予約特典と置き換えられることができそう
ショップなどで早期に予約するとヒロインのイラスト色紙がもらえたり、ソフトの購入時に特典がついてきたりします。それ目当てで予約ショップを検討するという方も多いのではないでしょうか。
・基本無料のゲームシステム→そんなものはない
エロゲは基本的に有償のパッケージソフトです。例外的に新作が無料で公開されたエロゲもありますが……大多数は有償ソフトであり、まずお金を払って購入する必要があります。価格も大手ブランドでは8000円~10000円程度と、そう気軽に購入できるものではありません。
・スタートダッシュガチャ→ない
・ログインボーナス→ない
一部、ヒロインの誕生日に起動すると特別なイベントを見ることができるようなものもあります。定期的にログインする行為に意味はないです。
・定期的なシナリオの追加、キャラの追加→ない
ここではファンディスクや続編ではなく、ソフト単体を指します。ごく一部の作品ではアペンドもあったりしますが、大多数は追加要素がないことがほとんどです。

……と、このように、あまりプレイヤーに長く遊び続けてもらうという工夫はありません。一般的なエロゲはノベル形式ですし、RPGのように長時間プレイするものではありませんが……それでも、以前まではそれでいいと思っていました。
ですが、今はソーシャルゲームによって「ある問題」が浮き彫りになったと考えています。

 

■エロゲ購入はハードルが高い問題

基本無料のゲームが多数台頭する中、有償のエロゲを購入するのはハードルが高いということがわかりました。
フルプライスで1万円弱という金額を払って、でも内容が面白くなかったり期待外れだったらどうしようとか、最近忙しいし買っても積んでしまうんじゃないかとか……。
現代人はとかくリスクを恐れます。失敗に厳しい世の中であったり、あまり収入に余裕がなく贅沢な出費ができなかったり、理由は様々だと思いますが。


しかし、エロゲには体験版という文化があります。体験版をプレイしてみて、面白ければ本編を購入する……それが体験版の担う役割のひとつであることは間違いないでしょう。
しかし、実は体験版をプレイすることにもコストがかかるのです。ここでいうコストとは金銭のことではなく、プレイヤーの「時間」です


ブランドのHPにアクセスして、体験版のダウンロードページに飛んで、体験版をダウンロードして、プレイする。その一連の流れをこなすには数十分とはいえ時間がかかります。購入するか悩んでいるプレイヤーが、購入を悩んでもいないけど今月の新作チェックに巡回しているプレイヤーが、その作品に対してそれだけの時間を捻出するほどのモチベーションを持っているかという観点については一考の価値があると思います。

 

また、ソシャゲの方がガチャで多くのお金を注ぎ込むことになるから結果的にはエロゲの方が割安、という考え方もあります。しかし、ソシャゲの場合は「課金するつもりじゃなかったけど気がついたら課金していた」という現象もあり、一概に割安と断ずるのも難しいと考えています。

 

■エロゲのコンテンツ鮮度短すぎ問題

こちらはブログの前記事でも話題にしましたが、エロゲがノベル形式のパッケージゲームである以上、余暇を全力で注ぎ込めば数日もあれば全てのシナリオを見終えることができてしまいます。
しかし、ソシャゲは継続するコンテンツであり、定期的なアップデートによって1つの作品を数年単位で遊ぶことができます。読んで終わりのゲームよりも、長く続くゲームを仲間とSNSなどでわいわいやる方がより長く楽しめるというのは現行のエロゲには実現できないものです。


最近ではDMMゲームズを中心にエロ要素のあるブラウザゲームも多数登場しており、基本無料で長く楽しめる成人向けゲームというものも台頭してきています。それらに時間もお金も吸われてしまえば、エロゲに向けるお金や時間、行動が縮小していくのも道理というものです。

 

このような新しい文化に即した新しい形態のコンテンツが台頭してきたことにより、エロゲという歴史の長いコンテンツが時代に沿わなくなってきた、というのが私の考えた結論なのです。

 

 

 

長文になってしまったので今回はここまでです。次回(明日6/9投稿予定)は上記の問題とどうすれば向き合っていくことができるのか、実例などを交えて紹介できればと考えています。